旧脇坂屋敷跡



青観「僕の絵をたまには見ますか」
志乃「ええ、去年京都で個展をなさいました時、見に行きました」
青観「そうですか。確かあの中にも、貴女を描いた絵があった筈だが…」
志乃「ええ…気が付いとりました」
青観「静かだな…」
志乃「あんまり静かなんも、独り暮らしには寂しゅうて…」
青観「お志乃さん、申し訳ない」
志乃「どないして?」
青観「僕は貴女の人生に責任がある」
志乃「昔とちっとも変わらしまへんなぁ、その言い方」
青観「いや、し、しかし…僕は後悔してるんだ」
志乃「じゃあ…仮にですよ、貴方がもう一つの生き方をなすっとったら、ちっとも後悔しないで済んだと言い切れますか?」
青観「……」
志乃「あたし、この頃よく思うの。人生に後悔は付きものなんじゃないかしらって。
ああすりゃ良かったなぁという後悔と、もう一つはどうしてあんな事をしてしまったんだろうという後悔」

『男はつらいよ(第17作)寅次郎夕焼け小焼け』より